妻が不倫…でも慰謝料は請求棄却《解決!家事事件―法律と宗教―1》
商社勤めの男性は、全国各地を飛び回る敏腕営業マン。東京都内にマンションを購入してからは、妻を置いて赴任先に単身で乗り込み、2、3年を過ごすことも多かった。本社勤務のときは自宅から通勤していたが、帰宅は深夜に及ぶことがほとんどだった。

男性の妻は、元同僚。転勤の多い職場では共に生活することが難しいと判断し、結婚と同時に退職。3年ほどは専業主婦として暮らした。
ただ、男性が単身赴任を始めると、妻は誰もいない自宅に閉じ込められているように感じるようになり、再就職を模索するようになった。今から11年前のことだった。
食品メーカーに再就職した妻の仕事は、スーパーなどの小売り事業者への営業。持ち前のフットワークを生かし、顧客からの評判は良く、新たな客先の開拓も順調だった。「やりがいを感じている」と、男性に伝えていた。
男性が本社勤務となり、自宅に戻っても、妻は食品メーカーで働き続けた。妻が準備する夕食は、スーパーの総菜や冷凍食品が多くなったが、仕事の忙しさや取引先との関係があってのことだと思った。
変化を感じたのは9年ほど前だった。携帯電話をトイレに持ち込むようになり、高価な服を身に着けるようになった。そして、休日出勤が急に増えた。「おかしい」と思い、妻が不用意に置き忘れたスマートフォンを手にした。ロックがかかっていた。
そこからは有給を取得して、妻の動向を調べたり、興信所に依頼したりもしたが、確たる証拠が得られなかった。腑に落ちないながらも、思い過ごしだと思うようにした。
置き忘れたスマートフォンのLINEに…
その日、出張で帰宅は深夜に及んだ。ドアを開けると、妻が誰かと言い争うような声がリビングから聞こえた。音を立てないようにドアを開けたため、妻は帰宅に気付いていないようだった。聞き耳を立てたものの、「もういい」の一声で会話は終わった。誰かと電話していたようだ。
風呂上がりだったのだろう。妻は寝室に入ってドライヤーの音を響かせ始めた。そっとリビングに入ると、テーブルの上には、ロックの解かれたスマートフォンがあった。思わず手に取り、無料通話アプリ「LINE」を覗き込んだ。
先ほどの電話の履歴が残っていた。「不倫相手ではないか?」。とにかく画面をスクロールして、履歴を次々と撮影していった。撮り終えた後もドライヤーの音は響いていた。妻に声もかけず、熱いシャワーを浴びた。
風呂から上がると、テーブルの上のスマートフォンは姿を消していた。どうやら妻は寝室に籠ったようだった。冷蔵庫から出した缶ビールを開け、自分のスマートフォンが入ったカバンを見つめた。
撮影した画像を見たのは、2日後。やはり不倫相手で、相手は妻の職場の人間だった。
妻と不倫相手は別れ話をしていたが、夫婦関係は修復されることなく、4年後に妻が家を出る形で別居。半年後に妻が調停を申し立て、3カ月後に離婚調停が成立した。
男性は、不貞行為によって離婚を余儀なくされ、精神的苦痛を受けたとして、妻の不倫相手を相手取り、慰謝料などの支払いを求めて提訴した。
ただ、裁判所は、慰謝料の請求が認められるのは、やむを得ず離婚することになった〝特段の事情〟があるときに限られるとして、夫の主張を退けた。
〝特段の事情〟とは、どういうものなのだろうか。そして、行きどころのない思いをどのように治めればよいのだろうか?
