【連載・宗教と〇〇】②宗教と発酵 変化をもたらす神仏と菌
宗教とかけ離れているように見える物事を、宗教に軸を置いて考えるとどうなるか。哲学のアプローチで社会を照らし、宗教を映し出す新シリーズ「宗教と〇〇」。第2回は、みその寒仕込みが始まるこの季節にちなみ、「発酵」を題材にします。※2026年2月26日文化時報掲載記事です。
与えられたもの
発酵は元の食品をより有益なものに変化させる。宗教は人のありようを変える。発酵食品の製造に携わる人々には、宗教者と共通する精神性があるのではないか―。

発酵とは、酵母や細菌が有機化合物を分解してアルコールや有機酸類などを生じさせる作用のこと。これを利用して酒やみそなどが製造される。発酵食品の歴史をさかのぼると、紀元前7世紀ごろの賈湖(かご)遺跡(中国河南省)にあるシャーマンの墓に、発酵飲料のつぼが副葬品として納められていた。

ギリシア神話のディオニュソス(バッカス)はブドウ酒の神とされ、太古の人々はワインが神に与えられたものと位置付けていたことが示唆される。
発酵食品に詳しいフランスのマリー=クレール・フレデリック氏は、考古学的な見地から発酵食品を論じた著書『発酵食の歴史』の中で「太古の人々にとって、発酵という現象を意図的に起こすことが難しく、偶然に左右されるため、神や超自然のおかげと考えた」と論じている。
米国の発酵食文化の専門家、サンダー・エリックス・キャッツ氏は、著書『発酵の技法』で、発酵文化が祖先から継承されてきたものであることを指摘した上で「それを伝え続けていくことは、究極の先祖崇拝だ」と指摘している。
世界的に見れば、発酵は宗教との結びつきが強く、「人知を超えた存在から与えられたもの」という感覚がある。
人為的な作用
日本にも、大徳寺納豆や金山寺みそなど寺院ゆかりの発酵食品は多いが、超自然的な力で作られたという感覚は乏しい。また、神社では神に酒をささげる習慣があり、『日本書紀』に記されているほど古くから行われているが、五穀豊穣(ほうじょう)を祈る意味合いが強い。
