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社説有料

〈年頭社説2026〉正しく恐れ、変化に向き合え

青森県東方沖を震源とする最大震度6強の地震があった昨年12月8日夜、私は岩手県大船渡市にいた。宿泊していた4階の部屋は長い間横揺れが収まらず、緊急地震速報のけたたましいアラーム音に驚いている間に、津波警報が発令された。 文化時報社主筆 小野木 康雄 ※文化時報2026年1月1日号の掲載記事です。

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宿泊先は海沿いにある。急ぎコートを羽織って屋上へ出た。何人か同じように出てきた客があって、不安そうに顔を見合わせた。防潮堤の方から、サイレンと警戒を呼びかける防災行政無線が聞こえていた。

 フロントの従業員や地元の人から、建物は高台にあるから大丈夫だと聞かされて部屋に戻ったが、その夜はすぐ動けるようスーツのまま床に就き、ほとんど眠れなかった。幸い、大船渡に到達した津波の高さは20センチで、被害はなかった。

正常性バイアスのわな


 「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」

 物理学者で随筆家の寺田寅彦(1878~1935)が、浅間山の小噴火について書いたエッセー「小爆発二件」の一節である。防災ではしばしば「正しく恐れる」ことの大切さが叫ばれるが、典拠はこの文章らしい。

 実際に地震に遭うと、「なかなかむつかしい」ことは身に染みて分かった。屋上から部屋に戻るという選択をしたとき、危険が迫っていても正常の範囲内だと認識する「正常性バイアス」のわなに陥っている恐れはないか、何度も自問した。

 地震発生から津波到達までの時間は、大船渡では52分あった。「ゆでガエル理論」のことも頭に浮かんだ。緩やかな環境変化に気付かず、危機に陥ることの比喩だ。カエルは熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、水に入れて徐々に熱していくと、気付かぬうちにゆでられて死んでしまう―という逸話が元になっている。

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